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TAPPとTEP、どちらが良いのか? ー その議論自体が患者さんを悩ませている

2025/02/19

鼠径ヘルニアの腹腔鏡手術には、**TAPP(経腹膜前腔アプローチ)TEP(完全腹膜外アプローチ)**の2種類があります。患者さんから 「どちらがいいのか?」 という質問を受けることがよくありますが、この議論自体が 外科医のエゴ ではないかと感じることがあります。

実際のところ、どちらの方法でも正しく行えば問題なく、安全に手術できる ため、患者さんがこの選択で悩む必要はないはずです。それなのに、医療者側の発信が患者さんを迷わせてしまっているのは申し訳なく思います。

 

TAPP vs. TEP – 外科医がこだわる理由

外科医の間では、「どちらの方法が優れているのか?」という論争が続いています。しかし、これは医師個人の好みや慣れによる影響が大きく、結局はそれぞれの術者が「自分が惚れ込んだ方法」を推す傾向があります。

患者さん目線で考えれば、「どちらがいいのか悩む」こと自体が不必要なストレスになり得ます。本来、外科医がすべきことは、どちらの方法でも安全に手術できる技術を持ち、手術中に最も適した方法を選択することです。時には切開法という選択もごく一部のケースではアリでしょう。

 

強いて言えば、こう考えるのが合理的

どちらの方法も適切に行えば問題はありませんが、強いて言えば、以下のような傾向があります。

両側のダイレクト型(直接型)ヘルニアならTEPが合理的な可能性
 ・腹膜を切らずに正中から両側同時に修復できるため、理論上は適している。
 ・ただし、視野が狭くなるため、術者の技量が問われる

✔ 再発や巨大なものには基本的にはTAPPというのが通説。しかしTEPでやり遂げる人もいます。上手ければ否定する余地はありませんが、当院の印象としてお互いに面倒が増えるからTAPPのほうがスマートだと思っています。

✔ 手術中に腹腔内の癒着が著しいことが判明した場合→これはTEPが一択となることもあります。当院の経験ではTEPじゃなかったら無理だったというのは5000のうち1例!

5mmポートのみで手術を済ませたいならTAPPが簡単
 ・TAPPは5mmポートのみで手術できるため、術後の痛みが少ない。これは科学的根拠が明白!
 ・一方、TEPでは12mmポートや単孔アプローチを選ぶことが多く、術創が大きくなる可能性がある。

へそを大きく開けるのが一般的なTEPは、むしろ術後の痛みの原因になりうる
 ・臍部は痛みを感じやすく、「ヘルニアよりもへそが痛い」と訴える患者さんもいる。
 ・TAPPならへそを大きく開ける必要がなく、痛みを軽減できるが、一部の施設ではTEPでもオンリー5mmというのができる猛者もいる。

TEPは腹腔内に入らないため、理論上は腸管損傷や腸閉塞のリスクが低いとされるが、実際には手術チームの技量による影響が大きいというのが実情です。

例えば、TEPを第一選択にしている施設で腸管損傷や腸閉塞の合併症が多発している事例もある一方で、TAPPを標準術式とする東京外科クリニックでは5000例中一例も発生していない という事実が示すように、 術式自体の優劣ではなく、執刀者の技量に依存する という視点が重要になります。

TAPPでも熟練したチームであれば、腸管損傷や腸閉塞の合併症をゼロに抑えることが可能どの術式を選ぶかよりも、手術チームの管理体制や技術レベルがリスク管理の鍵となる

 

結論 – どちらの方法かを決めること自体がナンセンス

「どちらの方法がいいのか?」と悩むこと自体が、患者さんにとっては無意味な負担になっています。

本来、手術方法を決めるのは外科医の責任であり、患者さんが悩まなくてもいいようにするのがプロフェッショナルの仕事 です。

術前にTAPPかTEPかを厳密に決めるのではなく、手術中に最も安全な方法を選ぶ方が患者さんのリスクを減らせる というのが本質的な考え方です。

外科医のこだわりやエゴによって続いてきた「TAPP vs. TEP」論争は、実は患者さんにとっては本質的な問題ではない のです。

 

患者さんへ – どちらの術式を選ぶかより、もっと大切なこと

どちらの手術でも安全にできる技術を持った医師を選ぶことが大事
手術方法にこだわるのではなく、患者さんごとに最適な方法を手術中に柔軟に選択できることが重要
外科医のエゴに振り回されるのではなく、信頼できる医師に任せるのが最良の選択

手術は、術中に予期しない状況が発生することもあります。そのため、最初から「TAPPでやる」「TEPでやる」と決めるのではなく、状況に応じて柔軟に最適な方法を選ぶことが、患者さんにとって最も安全な選択肢なのです。

答えがきちんとあう。そのプロセスに長時間化や計算ミスが発生しやすことがなければ、いろんな方法がある。数学の世界と同じですね!

これから手術を受ける方にとって、この考え方が参考になれば幸いです。

 

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