コラム/ columns

腹腔鏡による鼠径ヘルニアの手術の診療明細書に関する疑問

2019/03/16

実際に手術をお受けになった患者さまより時折頂戴する質問に対してお答えします。

今回のテーマは「自分が受けた手術は左右どちらかの片側であるのに診療明細書に腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術(両側)と記載されているのはなぜか」というご質問です。

結論から申しますと、間違いでも不適切でもないということです。
ただ、片側しか手術が行われていないのが実際なのに「両側」と記載されるのは、公的な保険診療上のルールであり、医療の1提供者としてはどうすることもできないものの、患者さまの誤解の原因となっていることも事実なため心苦しく思っています。

以下、理由を詳記します。

最初に、鼠径ヘルニアの手術は片側のみであっても両側であっても腹腔鏡で行う場合、手術自体の代金は変わらないという制度上の約束事があります。
(厳密には使用するメッシュの代金、手術時間が延びる分の代金、その分の薬剤の代金が加算されますが、患者さまの自己負担としては1万円以内というところでしょう。)

次に、医学的な手術適応について言及します。
保険診療の制度上の適応というのはあくまでも、すでに病気が存在するものを対象とするので、予防的な治療は適応外となります。
つまり、鼠径ヘルニアが発症していない健康な鼠径部には、メッシュを入れるなどの治療を行うことはできないということです。
「どうせだったら両側一度に手術を受けたい」と希望する患者さまも時折いらっしゃるのですが、すでに左右両側を発症しているかたのみが医学的な適応となるのでその点 了承いただいております。
この行動は当院のみならず、専門家である私の友人の多くも同様の方針をとっています。

私個人としては、誤解を防ぐ意味でも片側と両側で手術料を変えてほしいと思っていますが、国が決めたことなのでどうにもなりません。
診療報酬請求のコンピューターより出力される明細書を改竄したら、それこそ不正行為になってしまいます。

よって、腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術(両側)という術式は、片側であっても両側であっても手術料自体は一緒なので「括弧付き両側」と記載されているのです。
時として、この件、患者様より誤解のもととお叱りを頂戴することがありますが、それはごもっともであるので、記載を工夫してもらうよう当局に働きかけを行っているところです。
しかし、医療行政を動かすことは短期のうちにはできません。
現状 手術をお受けになる患者さまにおかれましてはこの件、とくに健康上も経済的にも余計なご負担となっているわけではないので、ご理解のほどよろしくお願いいたします。

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