コラム/ columns
前立腺全摘後の腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復については異論があると思います。
切開法の先生はもとよりラパヘルの専門家の先生も適応外としていることもあります。
今回は松下公治先生と話し合いながら行った手術を供覧します。
アンチの先生にも、これはこれでアリなんじゃないかな?と思っていただけたら幸いです。
以下、解説も松下先生に示していただきました。
- 経験上、ほとんどがJHS Ⅰ-2つまり間接型である
- 内側の剥離は困難もしくは大きな危険を伴うので、無理のない範囲まで。
- できればヘルニア門からマージン3センチは確保したいが現実は難しいこともある
- もともとがほとんど1型。将来的に2型が発生することはほとんどないらしい
- 縫合に要する腹膜が足りなくなる恐れがある→ヘルニアザックを離断せず温存する
- IPOMでも同等なアウトカムが得られるかは要検証(当院ではIPOMにならないように腹膜縫合時の仕上がりを常にイメージしながら操作しています)
- ラパヘルでやるべきかに異論があるのはわかるが、切開法で大満足の結果が出せる自信は少なくとも東京外科にはない
- 患者さんからの腹腔鏡手術に対する期待が強く、それに応える使命がある
(単に適応外と突っぱねるのは大病院のロジックであり、それが悪いとは思っていません。しかし、当院のような専門施設では、安全に要望に応じるにはどうしたらいいかを考える必要を迫られます)
動画のみどころ
冒頭:腸管癒着の剥離部分を4倍速で流します。
3:20
索状物があり、これを切断していいのか一瞬迷っていますが、精巣血管、輸精管を同定して問題ないことを確認しています。
9:43
腹膜が十分残り、縫合に支障ないことがわかると思います。
10:05
メッシュ敷設部内側を1針固定。メッシュはプログリップなので基本的にはフィクセーションが不要。
今回はやや高位の腹膜切開でしたが、本来の高位切開法は上前腸骨棘の高さで腹膜切開し、背側にむきおろすだけで、腹側にはむきあげないでやるのが原法の定義づけのようです。
ただし、原法では腹側で腹膜が切開されるので、腹膜縫合は熟練を要します。
そのため、前立腺術後では本症例のように「通常よりやや高位程度」の腹膜切開で行い、少し腹側にむきあげる方が、縫合しやすくてよいと思います。